ろう者の情報保障を考える 手話通訳の現状と課題
8月22日(月)

報告
視聴人数はなんと345人!「ろう者の手話通訳事情」の報告です
木村 晴美 さんをゲストにお呼びし
ろう塾学生スタッフの 山中 美侑 さん・宮腰 翔 さんが登壇しました。
【第1部ー事例発表ー】
事例発表1(山中さん)手指日本語による通訳がもたらすもの
1 山中さんがこの企画を立案したきっかけ
大学の授業のため手話通訳を依頼したところ、手指日本語寄りの手話通訳者が派遣された。その時に意思疎通がうまくいかなかったことに対して、手話通訳はろう者のためにあるのかと疑問を感じたことがきっかけ
2 グループワーク(以下、GW)での事例
大学の授業でGWをするときに手話通訳を依頼
その手話通訳者は手指日本語を用い、山中さんは日本手話を用いるため、話が嚙み合わない。さらに、お互い読み取りができないことを述べた。それが繰り返されるため、時間が非常にかかる。
それからは手話通訳を依頼せず、GWのときはスマホに日本語を打って意見を述べている。
しかし、日本語入力は時間がかかるため、他のグループと比べて話す内容が浅くなる。自分がたとえ日本手話を用いたとしても通訳内容が合っているかどうか確認するすべがないため、日本語で100%伝えるのがいいと判断した。
3 講義での手話通訳
手指日本語での手話通訳のため読み取りが難しい。読み取りに集中しているため講義中に自分の考えを深めることができない。PCNTを用いた方が情報を拾いやすいと判断した。
専門用語の確認を本来はやるべきだが休憩時間が10分のため、時間がない
日本手話で通訳できる人、専門用語の手話通訳など指名できない
4 手話通訳とのコミュニケーションの取り方や対応方法
手話通訳者のを読み取れなかったときに再度表現してもらうように言うのか、遠慮して授業終了後に言うべきなのかわからない。はっきり「わからない!」と言うべきなのか。
利用者の立場だから遠慮するべきなのか、手話通訳者とは対等なのか。
事例発表2(宮腰さん)大学での情報保障と課題について

1 宮腰さんがこの企画を立案したきっかけ 筑波技術大学はろう者のための大学で、情報保障はきちんと整っているという説明があったが、非常勤講師の場合はない。 2 聴覚障害のための大学だが100%保障されていない PCNTの場合、日本語で表示されるが宮腰さんの第一言語は日本手話である。そのため、翻訳作業を要し、疲れるとのこと 学生支援課の事務の二人が重要な行事にのみ手話通訳に入る ろう通訳も専門用語に関しては限界があるのではないか 先生の板書の様子と情報保障の2画面は疲れる 3 自分の言語で講義を受けられないことによる影響 手話に対する情報保障がない、日本語のみ 日本語から手話への翻訳作業を要するため、後々ズレが大きくなる コロナ禍のため、オンライン授業。オンラインでGWをするときに、日本語入力で意見を言うため負担が大きい。 4 教授への連絡 日本語でメールするものの限界があり、手話で補足をして説明している。先生からの返信が日本語であれば早いが、日本手話だと遅いといった課題がある。
事例発表3 通訳養成と現状(通訳の立場から:Twitterより)

【第2部ー現状と課題ー】
山中さん・宮腰さんの事例をもとの質問に木村さんが答えました!

1 日本語対応手話の手話通訳が多いのはなぜ?
日本手話の手話通訳はいないの?
手話通訳者は聴者が多く、第一言語が日本語であること。
手話と音声日本語が同時に使われているバイモーダル状態になっていること。
地域の手話通訳養成の方法に問題がある。日本の場合、専門知識を有する人が教えるという考え方がない。
日本語講師になるための資格を取得するのに400時間を要し、日本文化をきちんと理解したうえで日本語を教えるが、手話を指導する場合はその時間が確保されていない。
声付き手話が必要とされる理由に聴者が安心するからという見方がある。(医療通訳者の例)
2 日本の通訳養成と地域で異なる問題点
日本の場合、手話通訳養成のための本があるが声付き手話と日本手話どちらも大事だという考え方で違いが明示されていない。
違いが曖昧なまま教わっているという状況
アメリカにあるCITという手話通訳養成のための会議で2年に1回開催されている。そこでは80%が聴者、20%がろう者だが、区別がつかないほど聴者の手話のレベルが高い。ASLと英語の違いをはっきりと理解している。
3 日本の大学での講義の受け方
コミュニティ通訳、みんぱく民族学博物館、群馬大学にいらっしゃる中野聡子先生についての説明
インテ出身者の場合は声付き手話通訳がいいと思っていたが、中野先生の場合は学術通訳のときは日本手話の方がいいとのこと。情報処理が声付き手話通訳では追い付かない。
学術用語すなわち、術語を専門的に教える場所が少ないという問題がある。
ロチェスター工科大学ではフルタイムで手話通訳が入ることがあり、10人ぐらいの手話通訳者がいたという。
英語対応手話の給料はASL手話通訳者より安いため、ASLを習得する人が多かった。
4 大学では情報保障があって当然と考えることはよいのか
体調不良、寝坊で連絡をすることは「人として」大事なこと。
当然の権利だからと言って、マナーを破ってはいけない。
当然のことだが、日本人は母語、第一言語共に日本語である。しかし、ろう者の場合は第一言語が日本手話の場合がある。手話で学ぶ権利は守られる必要があるのではないかと。
マジョリティの当たり前、例えば情報保障は不要などがあるがろう者は必要である。それを「負担」と感じるかもだけど「マジョリティの特権」と捉えるとよいと。
5 昔と今の通訳とろう者の位置づけ
52年前に手話通訳養成講座が、平成元年にNHK手話ニュースが始まった。内容がわかるというよりはテレビに通訳者がいることに対して感謝していた。このように昔は要求の程度が低かった。手話通訳者として何が問題なのかわかりにくかった。
手話通訳者も「人」だから言い方など、気を付けて いい関係を築いていってほしい
ろう者が「背立」か「自立」かで対応方法を考え、「自立」しているろう者であれば文化のズレを修正していく
おせっかいな通訳者は「背立」には合うが、「自立」にはそぐわない。いかにも通訳者という立場であれば「自立」には合うかもしれないが、通訳者はすべてを内包する必要があることを述べている。
6 私たち若手ろう者と通訳ができることとは
山中さん
「特権」による負担はあるが、その特権を利用して聴者と一緒に考えていくことが大事
宮腰さん
マナーなどを踏まえた上で、自分を見つめ直し、制度を変えていくカギになるのではないか
7 まとめ
手話通訳の未来を作っていく自覚を持つこと、
特権を利用し言い方には気を付ける、
情報を集めて武器を作ること、
通訳の立場、利用者の立場を考えることが大事だと最後にまとめました。
登壇者

ゲスト
木村 晴美氏
通訳養成専門職

ゲスト
山中 美侑
学生スタッフ

ゲスト
宮腰 翔
学生スタッフ

司会
巴 優菜
学生スタッフ