緊急シンポジウム

「日本手話の魅力と重要性」

5月29日(土)

189名の参加をいただきました。
緊急シンポジウム「日本手話の魅力と重要性」の報告です。
学生スタッフの河野さんが登壇しました。

以下 立命館大学 佐野様の寄稿文です
2022/05/29 緊急シンポジウム「日本手話の魅力と重要性」を無事終了しました。200名の定員に対し、189名の参加をいただきました。この場をお借りして、皆様のご支援に心から御礼申し上げます。
 
第一部では、埼玉県立特別支援学校大宮ろう学校教諭で、「NHK手話ニュース」ニュースキャスターを務め、東京オリンピック閉会式の「手話の人」として注目を集めたろう通訳者の戸田康之先生をお招きして、日本手話とはどのような言語なのか、手指日本語(日本語対応手話)とはどのように違うのか、わかりやすくご説明をいただきました。「私とお父さんが学校へ行く」「私のお父さんが学校へ行く」という二つの文が、手指日本語では同じ表現になってしまうが日本手話ではうなずきを用いて明確に区別できる、という説明は本当にわかりやすく、手話についてあまり知らない人にも良く理解していただけたと思います。趣旨日本語では、欠落している助詞を音声や口形などの情報で補いながら理解するのですが、この例では「と」と「の」という、口形としても判別しにくく、音声的にも聞き分けにくい助詞ですから、特に日本手話の重要性が際立っていたと思います。
 
続いて立命館大学の佐野から「ろう児の認知発達に日本手話が必要なわけ」と題した短いお話をしました。言語は単なるコミュニケーションのツールであるばかりでなく、思考を深めるツールであり、個人のアイデンティティの重要な基盤であることを指摘し、ろう児の発達にとって日本手話が不可欠であることを説明しました。
 
これを受けて、日本手話は、幼い子どもお母さんをつなぎ、健全な母子関係を育むためにもとても有効であることを、札聾保護者の河野愛さんが説明してくれました。聴の母である河野さんはご自身のろうのお子さんを育てる中で日本手話での絵本読みを取り入れてきました。その様子をビデオを使いながら説明してくれましたが、かわいらしいお子さんが、お母さんの絵本読みに夢中になる様子にみんなほっこりとしました。
 
河野さんに絵本読みの指導をしてこられた岡本さんによる絵本読み実践がこれに続きました。出版社(学研プラスさん)のご了解のもと、オンラインで行われた「しましまぐるぐる」の日本手話による絵本読みに、大人も子どもも、聴の人もろうの人もくぎ付けになりました。しましまやぐるぐる、といったオノマトペが、岡村さんの手から魔法のように紡ぎだされていました。日本手話の豊かな世界に触れるひと時でした。
休憩をはさんで、ろう塾の河野赳大さんから、「日本手話を使うことで深められる思考力」というタイトルでお話をいただきました。札聾の卒業生でもある河野赳大さんの語りは本当に説得力があり、子育て中のお父さん・お母さんや、教員にもとても学ぶことの多いお話でした。特に授業の中での手話が、日本手話である場合と日本語対応手話の場合、どのように理解に差がでるのか、という指摘は非常に重いものだったと思います。
札幌聾学校で教えるろう教員の手塚先生から、「しゅわっち」とよばれる日本手話を用いた自立活動についての報告がありました。ここでは、手話に親しみ、ろう文化にふれ、ろう文化の担い手として、ろう者としてのアイデンティティを豊かに育んでいくための活動について、ビデオを交えてご紹介がありました。
シンポジウムを締めくくるにあたり、札幌弁護士会の猪野弁護士から、札幌聾学校の現在の状況についての報告がありました。札幌聾学校は日本で唯一日本手話で教育を行うことを宣言している公立のろう学校です。しかし、日本手話を用いたバイリンガルろう教育を実践してきたベテラン教員の定年退職の補充にあたっての保護者の申し入れに対して、札聾管理職と北海道教育委員会は真摯に対応しているとは言えない状況が続いています。日本手話で教えられる先生が不足し、日本手話のできない教員が担任として配置されるなど、子どもたちの学ぶ権利が侵害される状況が続いています。また、若手の教員の研修の機会も奪われたままであることや、乳幼児相談室における日本手話を活用した支援の縮小などが報告されました。こうした現状を踏まえ、このシンポジウムでは北海道教育委員会と北海道知事に向け、以下の緊急提言を提示して幕を閉じました。

緊急提言

聞こえない子どもたち、ろう児が100%理解し、使えることばは日本手話です。
ろうの子どもたちは日本手話を通じて学びを深め、ろう者としての誇りを持ち、豊かな心を育んでいます。ろうの子どもたちの学習権を守るため、以下の点を北海道教育委員会、及び北海道知事に求めます。
1.日本手話で授業ができる教員を札幌聾学校に配置してください。
2.北海道の聾学校におけるバイリンガルろう教育の灯を消さないために、こうした教育の実践に携わってきた定年後のバイリンガルろう教育の経験豊かな教員を積極的に再任用し、若手教員の研修の場を確保してください。
3.これらの約束が本当に果たされているか、ろう児とその保護者に確認してください。
運営に当たっては、ろう塾のみなさまと手話親の会の皆様に多大なご支援をいただきました。こうした横のつながりをさらに強め、日本中のろう児が日本手話で学ぶ権利を確保できるよう、大きなうねりにしていきたいと思っています。これからもどうぞよろしくお願いいたします!

文責
立命館大学 佐野愛子
追記
このシンポジウムでご紹介したいと思い、アカデミー賞 短編映画賞を受賞したThe Silent Child という映画に、配信元の許可・協力を得て日本語の字幕をつけました。この映画は、ろう児にとって、手話で学ぶ環境がどれほど大切であるかを広く訴えるため、You Tubeで無料で公開されていますので是非ご覧ください。